一方、生前贈与しなかったために貯金が1000万円を超えるB氏は、同じ年金額なのに、特養の費用は年約156万円、医療費も2割負担でA氏の2倍かかる。介護と医療費で年金の大半が消え、子に残すことはできない。
「年金貯金を贈与した人」と「しなかった人」の損得の差は今後さらに広がるのは確実だ。現在、国民金融資産約1400兆円の3分の2を60歳以上の世代が保有している。政府は増え続ける医療費と介護費を高齢者に負担させたい。そのため、収入が低い年金生活者でも貯金がある人には、医療費や介護費の自己負担をどんどん引き上げ、セーフティネットである高額療養費制度や高額介護費制度の負担上限も引き上げていく流れだ。
子供世代に早めに資産を移転しておかなければ、相続財産をごっそり奪われてしまうことになりかねない。こうした“年金貯金”の生前贈与は、自分が死んだときの相続税の節税という相乗効果も大きい。
相続税は「資産3000万円+600万円×相続人の数」まで課税されない。子が2人で配偶者が亡くなっていれば資産が4200万円を超えると課税される。この資産は貯金など金融資産と自宅の不動産評価額を合算したものだ。都市部にマンションや一戸建てを持っていれば、多少古くても2000万~3000万円の評価はつく。それに長生きして“年金貯金”で金融資産が増えていけば、相続資産が大きくなって子供たちに相続税がかかる可能性が高い。
その点でも、生前贈与で預貯金の残高を減らしておくことは、財産を減らさずに子に引き継がせるベストな選択になりうるだろう。
※週刊ポスト2019年12月20・27日号