2020年、相続改正では4月1日に大きなルール変更がある。夫が亡くなった後、20年以上連れ添った妻が自宅に住み続けることができる「配偶者居住権」の新設だ。相続人が妻と子の2人の場合、法定相続なら遺産を半分ずつ相続する。
親子仲が良くない場合、資産価値の高い自宅の不動産を妻が相続して住み、預金を子が相続すると、妻には生活費が残らない。子は「遺産分配が足りないから自宅を売って払ってくれ」と主張するかもしれない。
そうしたトラブルが起きたときに妻の居住権を守るために作られた制度で、遺産分割の際、自宅の不動産の所有権は子が相続し、妻は自宅に住み続ける権利「居住権」を相続する。配偶者居住権は建物に登記する必要がある。「夢相続」代表で相続コーディネーターの曽根恵子氏が指摘する。
「この制度を使う場合は注意が必要です。妻は死ぬまで自宅に家賃なしで住む権利がありますが、居住権を売ることはできない。子は家の所有権はあっても、事実上、居住権付きの家は売れない。しかも、固定資産税や家の修繕費は子が支払わなければならない。親子関係が良くないとトラブルの種になりかねない」
とはいえ、この配偶者居住権は使い方によって大きな節税効果がある。
夫が1億円の家を遺産として遺した場合、自宅を「5000万円」の居住権と「5000万円」の所有権に分割し、妻が居住権、子は所有権を相続する。子には相続税がかかるが、妻は配偶者控除で非課税だ。
節税効果が生まれるのは二次相続のときだ。妻が亡くなれば、「配偶者居住権」は消滅し、自宅は子の手に入る。しかも、妻が財産を遺していないから子には相続税がかからない。
もし、1億円の自宅の所有権を「5000万円」ずつに分けて区分所有で相続していれば、母が亡くなったときに子に相続税が課せられるから、「配偶者居住権」を利用した節税効果は大きい。
※週刊ポスト2020年1月3・10日号