Nさんの父は、輸送系企業の整備士。その会社は後に業績が傾き、企業年金の行方が世間の注目を浴びることになるが、その当時は羽振りよくOBに年金を払っていた。マジメに働いても、手取りが父の年金にも届かないという現実は、Nさんのプライドを酷く傷つけた。
「父は工業高校卒でしたが、色々なつてをたどって大手企業に潜り込みました。しかし、私の時代は大卒時に一流企業に入れなければ“おしまい”です。卒業する年の就職状況が良いか悪いかは、自分ではどうにもならないギャンブルのようなもの。競馬やカジノなら賭ける場所は自分で決められますから、ギャンブルの方がまだマシかもしれません。
大学の同級生に話を聞くと、『バブル世代の上司に散々こき使われたのに、いざ自分が部下を抱える身になったら、何をやっても“パワハラ”になる』と嘆いています。本当に損な年代だと思います」
かくしてNさんは、「自分で稼いだ金ぐらいは自分で使いたい」と、結婚する気はまるで無くなった。すべてを時代のせいにするのは後ろ向き過ぎる気もするが、両親はそのあたりの心境も理解してくれているのか、「結婚しろ」という類のことは一切言わないそうだ。