仕事のやりがいを給与だけに求めてはいけないが、あまりに給与が少なければ、情熱を失っても責められない。現在都内で塾講師をする40代男性のNさんは、30代の時に“ある事実”を知ったことをきっかけに、マジメに働く意欲を喪失。結婚などさらさら考えず、貯金も一切しない刹那的な生き方を貫くようになった。浪人も留年もせず、22歳で一流大学を卒業した彼に、いったい何が起きたのか?
Nさんは東京の下町生まれ。両親の学歴は平凡で、教育熱心でもなかったが、ふとしたことで人生のレールは思わぬ方向に進む。Nさんが小学生時代を振り返る。
「小学5年生の時、一番仲の良かった子から、『塾に通わなくちゃいけないから、もう遊べない』と言われました。彼とは毎日のように遊んでいたので、親に『ボクも○○君と同じ塾に行きたい』と言うと、あっさりOK。その流れで難関私大の付属中学を受験すると、友達は落ちて僕だけ合格してしまいました。そしてエスカレーター式に高校、大学と進みました」(Nさん。以下同)
結果的に、大学まではエリート街道を歩んだNさん。しかし時代の波が彼の人生を翻弄する。
「大学4年生だった1999年は、就職市場が超氷河期で、思うような企業から内定がもらえませんでした。そこで思い切って司法試験に挑戦することにしましたが、これが大失敗。6回連続で落ちて諦め、講師としてバイトをしていた塾に就職しました。職歴なし、履歴書が空白だらけの私には、選択の余地などなかったのです」
給料は安かったが、生徒や保護者からの評判はよく、自分では“天職に出会えた”と思っていたというNさん。しかし数年後、母親の愚痴を聞いていると、衝撃的な事実が明らかになった。
「父が定年を迎え、母が『これからは生活が大変だ』と言うので、年金をいくらもらえるのか聞いたところ、その金額に絶句してしまいました。父がもらう年金支給額は、私の手取りよりもずっと多かったのです。その瞬間、頭の中でポーンと何かが弾けて、すっかりすべてのことに対してやる気がなくなりました」