この10年で「下流老人」への転落リスクは着実に高まりました。年金収入があっても月5.6万円の赤字ということは年間で67.2万円。もし90歳まで生きるならば、65歳からの25年間で累計赤字額は1680万円になる計算です。これが10年前なら同じ25年間で780万円の赤字となり、退職金や貯蓄でどうにか賄える水準でした。
しかし、前述の金融広報中央委員会の調査では、60歳以上の高齢者世帯で老後破産を防ぐために望ましい金融資産(1500万円以上)を保有しているのは約30%にすぎないのが現状です。しかも、その中央値は60代で770万円、70代以上で590万円と明らかに貯蓄不足の世帯が多く、貯蓄なし世帯も約30%にも上ります。
つまり90歳まで生きるなら、半数どころか、それを上回る7割もの高齢者が老後破産リスクを抱えているわけです。
しかもこの先、さらに問題は深刻となるでしょう。現役世代の中高年の収入は減少しているのに年金保険料はアップ。負担が増えているにもかかわらず、年金の支給開始年齢も引き上げられることが確実視され、将来もらえるはずの年金が目減りすることは必至の情勢です。
親世代に持ち家などの資産があれば、それを売ってどうにかしのげるかもしれませんが、その後は何も残りません。自分たちの子ども、さらにその下の世代まで考えていくと、老後破産リスクは今後ますます高まっていくことが予想されます。
もはや「下流老人」は他人事ではありません。傍目には普通に暮らしているようでも、実は下流に転落して破産してしまうリスクを7割の世帯が抱えているのです。
※マネーポスト2016年夏号