大前研一「ビジネス新大陸」の歩き方

アフター・コロナでは「最悪想定プラン」に対応した企業が生き残る

 このスペイン風邪の教訓の一つは、感染がピークアウトした後も引き続き経済は大変動に見舞われる、ということだ。

 いま日本企業の経営者の多くはコロナ・ショックで自信を喪失している。21世紀はサイバー経済でAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)やサブスクリプション(定額制)モデルなどを活用しなければならないと頭ではわかっていても、腰から下がついていっていなかった。そこへ、コロナ禍が重なったからである。

 だが、今回のパンデミックは産業構造を激変させる契機にもなり得る。歴史を振り返ると、18世紀後半に始まった産業革命で産業構造は抜本的に変化し、それに対応できる企業とできない企業に峻別された。その時と同様に、いま企業はアフター・コロナを見据えた「21世紀型」になれるか、あるいは「19世紀型」に戻ってしまうか、という岐路に立たされているのだ。

 その点、中国企業の21世紀型への変貌は凄まじい。たとえば、eコマースや顔認証の技術が日進月歩で、広州はスマホの動画で商品を宣伝販売するeコマースの「“首都”になる」と宣言しているし、パンダの顔も画像や動画から個体識別できるまでに進化している。

 それに対して日本はどうか? いまだに昔ながらのテレビショッピングや画像のeコマースが大半で、顔認証もサイバー決済も全く普及していない。新型コロナ対応でも、島津製作所がPCR検査キットを開発したり、シャープなどがマスクを製造販売したりと新事業で話題になった企業もあるが、日本を代表する大企業の多くは危機を目の前に右往左往している。

 しかし、ここでアフター・コロナに対応できる21世紀型にトランスフォームできなければ、その企業は衰退・消滅するだけである。いま、すべての日本企業は、英語で「ブルータル・フィルター(brutal filter)」と言われる情け容赦のない残忍な選別・淘汰が始まっている、と肝に銘じるべきなのだ。

●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『経済を読む力「2020年代」を生き抜く新常識』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年6月5日号

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