『在宅だけど…ハンコのため出社 日本独特の文化壁申請書に上司印、契約書に会社印』(毎日新聞4月10日)、『「ハンコが必要」、やむなく出社? 行政手続き見直しへ/印鑑廃止宣言の会社も』(朝日新聞4月24日)──コロナ禍でテレワークが進むなか相次いだのが、こうした「ハンコ出社」報道だ。テレワークの阻害要因として槍玉に挙げられ、「脱・ハンコ」の動きが急速に強まった。
突然、“悪者”にされた当事者側はこうした風潮に真っ向から反論。全国の有力印章店が加盟する団体、全国印章業経営者協会は「街頭インタビューの少数意見を根拠としており、極めて局部的で公平性に欠く報道」と声明を発表した。
〈「紙による文書の決済、認証を得るためにわざわざ出勤しなければならないためテレワークできない」というのが一連の報道の本質的内容です。にも関わらずハンコだけを元凶のように報じるのは、視聴者受けするキャッチーなネタにしたいがため、ハンコをスケープゴートにしていると言わざるを得ません〉
業界専門誌『月刊現代印章』編集長・真子茂氏も、「テレワークの阻害要因はハンコ以外が大きい」と語る。
「経団連が4月に会員企業を対象に行なった調査結果では、テレワークの阻害要因は、社内の情報システムに社外からアクセスできない、セキュリティ上、顧客情報や開発情報を家に持って帰れないといった“従業員の業務の性質(情報管理上の懸念も含む)”が約75%と最も大きな要因でした。この中にハンコという文字は1回も出てきません。同時期に東京商工会議所でも同様の調査を行なっていますが、ほぼ同じ結果です」
ハンコは「新しい生活様式」の敵か否か──まさに世論を二分する議論となっているが、その役割がかつてないほど注目されていることは間違いない。