「繰り上げで早めに年金をもらっても、それまでの貯蓄で生活費を賄えるなら、“使い道がない”こともありえます。だからといって微々たる利息しかつかない銀行に預けたままでは、お金はほとんど増えません。老後資金に余裕があるなら、繰り下げて年金を温存しておくといい。1年繰り下げると8.4%増額されますから、銀行の預金金利と比べてみても相当な“高利率”といえるでしょう」
医療の進展に伴い超高齢化が進み、この先も寿命が延びるのは明白。働くシニアを支える制度も増え、65才以降も現役の人は少なくない。そうした面で、繰り下げはいまの時代に合っているといえよう。
どうせ減らされるなら早めにもらっておこう
では「繰り上げ」はどうか。「早くから確実に受け取れる」という点で、繰り上げ受給は有効だ。
しかも年金額は年々下がっている。昨年1月には公的年金の受給額が前年度比0.2%引き上げられると発表されたが、物価は前年度比で0.5%上がっている。「実質0.3%のマイナス」だ。安倍政権下の7年間で年金は「実質6.4%のマイナス」になっており、「今後10年間で1割ほどカットされ、その傾向は今後30年続く」といわれる。“どうせ減らされるなら、早めにもらっておこう”となるのも妥当な判断だろう。
「今回の改正で繰り上げ受給の減額率が低くなったので、長生きしても損をしづらくなりました。繰り上げ受給にとって追い風ともいえます」
ただ、可能性が減ったとはいえ、長生きすれば損になるデメリットは残る。
「繰り上げと繰り下げ、どちらが得かは、自分の寿命次第なので判断が難しい。自分が長生き家系か、老後資金はどれだけあるか、何才まで働けるかなど総合的に考えることが大切です」
もう少し具体的に見ていこう。単純な話だが、月収が高い人ほど増減額は大きく、月収の低い人ほど増減額は小さい。月収5万円の場合、受給開始を60才に繰り上げても、減額は月に1.5万円で済む。一方で月収が55万円の人が同様に繰り上げた場合、減額は月に4.3万円だ。
87才まで生きる人が繰り下げた場合、受給総額が最も大きくなるのは70才。65才での受け取りに比べ、月収55万円の場合は約450万円の差になる。月収5万円の場合は約150万円の差だ。