では、収入増・支出減によってお金はどこに行ったのかというと、やはり貯蓄にお金を回す人が多かったとみられる。5月の預貯金の引き出しは前年同月比13.6%減、反対に預貯金への預け入れは同10.9%増だった。これは、預貯金から現金を引き出して消費などに充てるという行動が抑えられた一方で、手持ちの現金を預貯金に預けたことを意味する。特に5月は、給付金が銀行口座に振り込まれ始めたタイミングとも重なり、これによって5月の貯蓄純増は同1034.2%増という大きな伸びを見せた。
もちろん「これから使う予定」という人も多いだろうし、まだ6月の数字が出ていないこともあり、はっきりしたことは言えないが、現段階では特別定額給付金の多くは消費よりも貯蓄に回され、消費喚起にはつながっていないと思われる。国の大盤振る舞いの甲斐あって、事前のアンケート調査では消費への意欲が高まったように見られたが、コロナ感染拡大の収束が見えないことや、この先の生活への不安もあって、実際に給付金を手にしても、もしもの時のために貯金しておきたいと思うのが人々の本音かもしれない。
【プロフィール】すずき・まさみつ/金融ジャーナリスト。岡三証券、公社債新聞社の記者などを経て独立し、有限会社JOYntを設立。投資信託や資産運用を中心に雑誌やオンラインメディアに寄稿する他、出版プロデューサー兼ライターとして230冊以上の単行本の企画・制作を手掛ける。