最期の瞬間まで自分らしく生きていくためには、楽しく、安心して暮らせる「家」が必要不可欠。それは、長年住み慣れたわが家だとは限らない。自然に囲まれた田舎へ移住したり、戸建てからマンションにサイズダウンしたり、人それぞれの事情とともに「終の棲家」は変化する。理想の終の棲家を見つけた芸能人が譲れなかったものとは何か──。
「終の棲家って、あまり好きな言葉じゃないんです。人生のラストシーンはシンプルな病室で迎えたいですね」
そう語るのは、女優の中村メイコ(86才)。2才のときに子役で映画デビューして以来、映画やテレビ、舞台で活躍する彼女は、23才で作曲家の神津善行さん(88才)と結婚。それから何軒かの借家暮らしをしたのち、都内の高級住宅地にマイホームを建築した。敷地300坪、地下1階、地上2階建てという大豪邸だった。
「体育館並みに大きな家でした。お手伝いさんがいないときにピンポンが鳴ったら、階段を上り下りして重い玄関の扉を開けて、そこからガレージを通り抜けて荷物を取りに行く。それがすごく大変でした」(中村)
長女で作家の神津カンナ(61才)、次女で女優の神津はづき(58才)、長男で画家の善之介(48才)が独立してからも豪邸暮らしを続けたが、80才になっていよいよ人生が終盤に差しかかったとき、夫にこう告げられた。
「きみはなんでもたくさん持っている。それをそろそろやめないか? もしきみが先に死んじゃったら、ぼくはきみの山のようなパンストに埋もれながら、それをどうするか考えなきゃならない。そんなじいさん、嫌だろう? ついては生活を縮小しよう」
この言葉をきっかけに「終活」を始めた夫婦は住み慣れた大豪邸を手放し、娘たちの家に近い3LDKのマンションに引っ越した。