現在は約1ヘクタールを超える田畑で米や約50種類の野菜を育て、併設するカフェには東京から来る多くのリピーターがわいわいと集う。加藤は「田舎には絶えることがない変化がある」と話す。
「風雪の厳しさや、天気で左右される変化の激しさは劇的なほどです。東京は一定の状態が保たれるけど、ここは季節ごとに変化して、放っておけば朽ちていきます。夏はセミや鳥や虫の音がやまず、冬は一面が真っ白になるほど雪が積もり、しんと静まり返ります。自然の影響を肌身に感じる場所です」
「これからどうやって暮らそうか」と未来を探す場所
時には大自然が牙をむく。昨年9月、台風15号が房総半島に上陸した際、現地にいた加藤は約2週間の停電を経験した。
「あのときは、自家発電のある集会所に地域の皆さんが食料やビールを持って集まって、毎日酒盛りでした(笑い)。被害は大きかったけど、ここに住む人々は自然の怖さを知っているから地に足がついていて、お見舞いに行った私が逆にパワーをもらいました」
人々が厳しい自然と共生しながら、人と人とのつながりを大切にするこの地は、「未来を探す場所」でもある。
「もちろん地域には私と同世代も多いけど、別の場所から移り住んでくる若い世代も増えているんです。私は『息子たち』と呼んでいますが、ここに集まる若い人たちは“これからどうやって暮らそうか”と未来を見ているので、時代の先端にいる感じがします。それに都会だとアポを取ってどこかに行かないと人に会えないけど、ここはじっとしていてもいろんな人に会える。昔の日本の家で、縁側にいると誰かが訪ねてくる感じで、人やものとの出会いや発見がおもしろく、“いま”を生きられます」