自分らしく最期までに生き抜くには、心が休まる「家」が必要だろう。長年住み慣れた家が“終の棲家”となる人もいれば、地方へ移住したり、介護施設に入ったり、その選択は人それぞれだ。
南房総の里山、東京から最も近い棚田である大山千枚田を越えた先に、広大な農村地帯が広がる。ここは、千葉県鴨川市にある「鴨川自然王国」。この地に居を構えるのが、歌手の加藤登紀子(76才)だ。
「率直に言って、どこにいても私は私だから、終の棲家はどこでもいいの。でも、夫がこの地を残してくれたことには感謝しています」(加藤・以下同)
「王国」は加藤の夫で、学生運動のリーダーだった故・藤本敏夫さん(享年58、2002年7月逝去)が有機農業を中心とした理想の農業を行うため、1981年に設立したもの。1972年に藤本さんと結婚したのち、3人の子供を育てながら歌手活動をしていた加藤は「東京を離れて田舎暮らしをしたい」と急に言い出した夫の提案に賛同するも鴨川には移り住まず、東京と千葉を行き来する生活を送っていた。
この間に農作業を学んだ加藤は、2002年に藤本さんが肝臓がんで亡くなると、夫の遺志を受け継いで「王国」の主になった。現在も歌手活動の傍ら、時間を見つけてはこの地を訪れている。
「いまは娘(次女で歌手のYae・44才)とその家族が住んでいますが、ここは藤本家の実家という位置づけで、正月になると家族みんなが集まって賑やかです。私は“皇太后”だから、好きなときにやって来て、居候するような感じ(笑い)」