右肩上がりの円安ドル高からボックス圏相場に入ったような値動きの続く為替相場だが、9月以降には大きな値動きも予想される。為替のスペシャリスト、松田トラスト&インベストメント代表の松田哲氏が解説する。
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外国為替市場で現在、最も注視されているのは、米国の量的金融緩和(QE)の縮小が始まる時期だろう。市場には様々な思惑が渦巻いているが、私は9月に出口戦略が始まると思っている。量的緩和策縮小に着手することは、政策が180度転換するということだ。出口戦略がスタートすれば、ドル高基調が鮮明になってくるだろう。
量的金融緩和縮小の開始については、9月17、18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で決まることが濃厚と考えている。米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が来年1月に退任することを考えると、縮小に着手する時期が12月では遅すぎるからだ。
バーナンキ議長が5月の議会証言で量的緩和の縮小を考えていると示唆したのも、出口戦略に向けて打ってきた布石の1つである。6月のFOMC後の記者会見ではさらに踏み込み、量的緩和の段階的な縮小を年内に始め、2014年半ばまでに終えるという、暫定的な工程表を発表した。
ところが、この発言によって米国株が急落し、日本の株価も影響を受けて大きく下げ、新興国の通貨や株式なども下落した。株価などの維持を狙う一部の市場関係者にとって、出口戦略の着手は都合が悪いため、「量的緩和縮小に着手するかどうかは、経済指標による」と縮小を必死に否定する声が相次いだ。
こうした動きに配慮し、バーナンキ議長も7月の議会証言で「経済指標によるけれども」という縮小の前提を語り始めたが、7月末のFOMCも含めて、縮小の方向であることは否定していない。そもそも、雇用や経済指標の改善が見込めるからこそ、バーナンキ議長は縮小の可能性を明言したのである。
さらに、バーナンキ議長には是が非でも9月に出口戦略をスタートさせなければいけない事情がある。これは私の推論だが、バーナンキ議長の本音は、「グリーンスパン前議長のようには、なりたくない」だと思う。
グリーンスパン前議長は在任中、優れた議長と高く評価されていたが、リーマン・ショック以後は、金融危機の原因を作った「戦犯」と非難されるようになった。もちろん、グリーンスパン前議長だけが悪いわけではなく、当時は誰も予測できなかった。
にもかかわらず、結果的に、リーマン・ショックを招いた責任を一身に負わされてしまったのだ。その金融危機と景気悪化に対応するために、バーナンキ議長が踏み切ったのがQE1、2、3である。
バーナンキ議長としては、前任者の二の舞いを演じたくない。量的緩和によって作り出した「バブル」の縮小に着手し、自分が後々、責任を問われないような形で退任したいと考えているはずだ。
そのためには、自分が議長の間に「出口戦略をスタートしたこと」を明確にしておく必要がある。12月に着手しても、翌月1月に退任では、バーナンキ議長が出口戦略を始めたとは言い難い。在任中にきちんと道筋をつけておけば、退任以降に状況が変わって新たな危機に見舞われても、それは新任者の責任となり、自分は免責されるという思惑があるのかもしれない。以上の観点から、縮小に着手するタイミングは9月しかないと考えるのが妥当だろう。
※マネーポスト2013年秋号