「借金は死ぬまで残ってもいい」と聞けば驚くかもしれない。
しかし、住宅ローンには団体信用生命保険(団信)というセーフティネットがある。多くはローンとセットで団信に加入し、万が一、返済途中で死亡したり、高度障害で働けなくなった場合、残債は全額保険で支払われる。実際には家族に借金は残らない仕組みだ。
老後の資金計画を考えるとき、「年金で住宅ローンを返していく」という社会の大きな変化に対応していくのか、それとも「借金は残さない」という従来の発想を大切にするのかは、年金のもらい方から、働き方、健康や介護、自宅の処分や老人ホーム入居といった人生プラン全体にかかわってくるテーマだ。
国の方針にも新たな変化が起きつつある。まず政府与党はコロナ対策として住宅ローン減税の特例(減税期間を10年から13年間に延長)を再延長する検討を始めた。減税期間は税金の一部が還付されて返済が楽になるが、特例は今年12月までに入居した者が対象だった。それを来年以降、新規に家を購入する者にも適用しようというものだ。
その先にあるのがコロナで返済が困難になった者に対するローン減免だ。
現在、大規模災害の被災者には住宅ローン破綻からの生活再建を支援する仕組みがあるが、金融庁や全国銀行協会、日本弁護士会などがその制度をコロナ関連で収入が減少した人にも適用する議論を始めた。
たとえば、住宅ローンの残債は1500万円あるが、不動産価値は800万円しかない場合、返済が著しく困難であっても、売却すると多額の借金が残ってしまう。そこで、住み続けたい人は不動産価値分(800万円)を分割で支払えば残りの債務を“免除”するといった考え方だ。いわば“住宅ローン徳政令”といってもいい。
そうした議論が始まったこと自体、コロナ後の人生100年時代に国民が新たな選択を迫られていることを物語っている。
※週刊ポスト2020年10月30日号