真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

東宝にジーンズメイトも 『鬼滅の刃』関連銘柄に殺到する投資家の心理

 これは、コロナ禍の自粛生活などを背景に存在感を増すIT企業がこれまで以上に注目を集めているためだが、その実態は「株価が上がるから買う」というバンドワゴン効果がもたらしている側面もあるだろう。

 そうした株価が右肩上がりの成長株に投資する「グロース株投資」が世界的に広がる一方で、企業の中身を分析して将来の成長期待に比べて割安な株に投資する「バリュー株投資」の存在感は薄まっている。米国のバリュー株とグロース株それぞれの指数を見ても、「ラッセル1000バリュー指数」は年初から8%のマイナス、「ラッセル1000グロース指数」は30%近いプラスと明暗が分かれている格好だ。実際、バリュー株投資を手掛けてきた機関投資家の中には、パフォーマンスの悪化から運用するファンドを閉鎖する動きも見られる。

 バリュー株投資は、徹底的な銘柄分析で世界的な投資家となったウォーレン・バフェット氏が得意とする手法であることから「インテリ相場」とも呼ばれる。しかし、今やグロース株投資によって単純明快な株価の波に乗る「サーフィン相場」が隆盛を誇っているのだ。コロナ禍で混乱した景気対策として、主要国は相次いで金融緩和を実施しており、これによって世界的な資金余剰状態が続く以上、サーフィン相場の優勢も当面続くと見られる。理性を捨てて大きな波を見なければ、なかなか勝てない相場がしばらく続きそうだ。

 もちろん、『鬼滅の刃』関連銘柄の人気もいつかは収まるように、サーフィン相場もいつまでも続くわけではない。バンドワゴン効果も、よく知らない人が押し寄せているうちは続くかもしれないが、皆が買い終えてしまえばそこで効果は途切れる。投資家は、株価の勢い(モメンタム)から目を離さず、短期的な動きに目を凝らし、急上昇が止まりつつあるようなら一旦引くことも考えておいた方がいいかもしれない。サーファーなら、波の変化をしっかり捉えたいところだ。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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