人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第5回は、空前の大ヒットとなっているアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の株式市場への影響と、その背景について分析する。
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10月16日に公開されたアニメ映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』がとんでもない人気を集めている。公開開始から3日間の興行収入は約46億円を突破し、約342万人を動員。コロナ禍にもかかわらず、公開初日と土日の興行収入、動員数はいずれも歴代1位と記録的なヒットとなっている。
その“鬼人気”は株式市場にも及んでいる。週明け19日の株式市場では、『鬼滅の刃』関連銘柄が大賑わいを見せた。配給元の東宝が年初来高値を更新し、宣伝協力を担当したウェッジホールディングスや、関連グッズを手がけるジーンズメイト、エスケイジャパンなどがストップ高となったのだ。
これこそ、行動経済学でいう「バンドワゴン効果」である。バンドワゴンとは、パレードの先頭を行く楽隊車のこと。今はあまり見かけなくなったが、チンドン屋が商店街などを練り歩くと、よく分からないのに賑やかな雰囲気につられて、思わずついて行ってしまう。あまり関心のなかった人も人気になっているから飛びつくという心の働きをバンドワゴン効果という。株価の値動きだけを見て追随して買うことを相場用語では「提灯をつける」というが、『鬼滅の刃』の記録的ヒットや関連銘柄高騰の裏には、大人気だからという理由だけで、あまりよく知らない人も群がっている現象があるようだ。
実は、そうした傾向は『鬼滅の刃』に限らない。バンドワゴン効果は今、世界的に見られる。史上最高値更新など好調が続いている米国株式市場では、「GAFAM」(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)を中心に巨大IT企業の株が圧倒的な存在感を示している。10月19日の日本経済新聞によると、今や世界のIT関連銘柄の時価総額は世界全体の4分の1に迫る規模となっているほどだ。