米トランプ大統領は、ある意味で信頼できる政治家なのかもしれない。ある意味とは、自分を支持してくれた有権者のために、公約をしっかり守ろうとするところである。
白人労働者たちの雇用を守り、国内の製造業を守るために、アメリカに対して巨額の貿易黒字を計上する中国に厳しい強硬政策を実施したり、貿易不均衡の発生しているメキシコ、カナダに対して北米自由貿易協定を見直したり、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)から離脱したりした。
支持者の雇用を脅かす移民に関しては、違法侵入を防ぐべくメキシコとの国境に壁を建設すると公約、一部の区間については壁建設のための予算を確保し、公約を守ろうとした。
GM社は2018年11月、大規模なリストラを発表、中西部オハイオ州の工場で生産を中止することになったが、トランプ大統領はこれを批判。一民営企業であるGMのCEOに対して直接生産再開を要求するなど、アメリカのリーダーである前に支持者の後ろ盾であることを優先するかのような振る舞いもした。
こうした自分の支持者だけを意識したかのような公約は、今回も同じである。保護貿易、厳しい移民抑制政策で彼らの雇用を守り、国内経済の再生で彼らのための雇用を創出する。彼らにとってはありがたい政策かもしれないが、彼ら以外のアメリカ人にとってはどうなのか。また、国家の政策としてはどうなのか。
中低所得の白人労働者で保守思想の強い有権者たちがトランプ氏の支持層だが、バイデン氏の支持層は必然的にエリート白人あるいは非白人でリベラル思想の強い層となる。
トランプ氏が自身の支持者に対して強くアピールすればするほど、支持者がそれを受けて熱狂的にトランプ氏を応援する。そうなると今度は、バイデン氏の支持者が反発する。バイデン氏も自身の支持者を強く意識した選挙戦を展開することになる。選挙を通して国家としての一体感は傷つけられ、分裂の危機が高まる。