一方、ペットは飼い主の所有する動産です。救助ヘリに乗せてもらえなかった犬が、洪水に流されて行方不明になったり、死んだりすると損失です。救助ヘリに乗せなかったことが違法であれば、賠償請求できます。しかし、自然災害の被災者救助で誰を、何をどの順番でヘリに乗せて救うかは、救助隊の裁量に任されています。
救助隊の重大な事実誤認や社会通念に照らして、著しく妥当性を欠いた判断でない限り、裁量権の濫用は認められないでしょう。
とはいえ、消防隊員は災害からの被害の軽減を任務とし、自衛隊や警察の災害救助活動では、財産の保護も目的の一つです。スペース的にも時間的にも余裕があり、その他特に支障もないのに救助隊が犬を乗せることを拒否したとすれば、裁量権の濫用として違法になるかもしれませんが、それは極めて稀であり、害意がある置き去りのような場合だけだと思います。
【プロフィール】
竹下正己(たけした・まさみ)/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。
※週刊ポスト2020年11月27日・12月4日号