感染対策も徹底しているが、同時に宿泊客のニーズにも耳を傾けるのが星野流だ。それを象徴するのが「新ノーマルビュッフェ」の開発である。
5月1日以降、感染リスクを考慮し、星野リゾートでは全施設でビュッフェ形式の食事提供を中止、セットメニューに変更した。同じ頃、全国のほとんどのホテルやレストランで同様の判断がされていたが、5月にリモートで開催された総支配人会議で予約センターのスタッフから「ビュッフェを希望する声が出ている」という意見があがる。そこで、「コロナ禍でも安心して楽しめるビュッフェはできないか」と新たなプロジェクトが動き出した。コロナ禍にあっても、顧客満足をあきらめない姿勢。これもまた、星野リゾートの強さの秘密だ。
ポストコロナの時代において、観光のあり方は変わっていくのだろうか。星野代表は「基本的には変わらない」としながらも、「変わるとすれば、きっかけはテレワークだろう」と語る。
テレワークをリゾート地や温泉で休暇を楽しみながら行なう「ワーケーション」が進むと見ている。
星野リゾートのワーケーションへの動きは早く、取り組みも積極的だった。連泊割引の導入やワークスペースの提供、オンラインミーティングに便利なビジネスアイテムの貸し出しなど、初心者にも安心なプランをバリエーション豊かに用意する。常に先を見つめ、新しい旅のかたちを提案する。星野リゾートの最強戦略はコロナ禍でもけっして歩みを止めない。
【取材・文】
山口由美(やまぐち・ゆみ)/慶應義塾大学法学部卒業。旅とホテルを主なテーマに幅広い分野で執筆。『日本旅館進化論 星野リゾートと挑戦者たち』など著書多数。2012年、『ユージン・スミス 水俣に捧げた写真家の1100日』で小学館ノンフィクション大賞受賞。
※週刊ポスト2020年12月18日号