真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

年明けの「急激な円高」に要警戒 2021年の為替相場をどう読むか

正月休み中の「薄商い」に乗じたドル売り攻勢も

 ここまでは中長期の話だが、実は短期の視点で見ると、2021年の年明け早々にも“急激な円高”に見舞われる可能性も考えられる。

 為替を動かす主な要因のひとつが「金利」だ。金利が高い国の通貨は買われる傾向にある。世界最大の“コロナ感染大国”となっている米国は、コロナ対策のため実施している金融緩和で実質金利が低くなっており、「米ドルは売られて然るべき」という考えが市場参加者の間で強まっているようだ。まして、バイデン次期大統領も景気浮揚に向けて「ドル安」を望んでおり、米政権にとってもドル安は望むところだろう。

 市場参加者と米政府の思惑が合致する方向で「ドル安」という「フレーム(枠)」が大手ファンドをはじめとした機関投資家の間で浸透すると、一気にドル売りを仕掛けようという動きが高まることも考えられる。特に、市場参加者の少ない薄商いとなる1月2~3日を狙って「ドル売り」が仕掛けられれば、ドル安が一気に進む公算が高まる。

 これこそ、行動経済学でいう「フレーミング効果」であり、「ドル安」という「フレーム」が一気に広がれば、「1ドル=100円割れ」というような急激な円高に振れる可能性もゼロではないだろう。

 過去には、2019年の1月3日朝にドル売り・円買いが一気に加速したが、年始で市場参加者が少なく、円売りで応じる勢力がいなかったため、それまでの「1ドル=108円台」から「1ドル=104円台」へと、一気に4円も円高になった。日本が正月休み中の「薄商い」に乗じて、ドル売り円買い注文が一方的に加速すると、これだけ一気に円高に振れてしまうのだ。

 2021年の年明けもこのフレーミング効果によって、この時と同じ、あるいはそれ以上の、例えば一気に6円もの円高となって、1ドル=98円と100円を切ってもおかしくない可能性を秘めている。2020年は、コロナ禍でいつ何が起こってもおかしくない事態が相次いで起きた。年が明けたばかりの為替動向には注意を払っておく必要がありそうだ。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。

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