世界同時株安の震源地となった中国経済の行方に注目が集まっているが、もうひとつ忘れてはならないのが、ギリシアの財政危機である。現在は一時的に収束しているように見えるがなぜ、ドイツを中心としたギリシア救済の交渉は難航したのだろうか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として活躍した赤城盾氏が解説する。
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2015年に入ってから向かうところ敵なしの感のあった日本株の快進撃は、意外にも、遠いヨーロッパのGDP(国内総生産)が20数兆円に過ぎない小国ギリシアの財政危機によってブレーキをかけられた。
ギリシアのチプラス首相の尊大な振る舞いは、直接の利害関係を持たない大方の日本人の目にも、粉飾決算の果てに財政破綻して救済を仰ぐ身でありながら盗人猛々しいものと映った。まして、ユーロ圏の盟主であり、救済の資金を提供させられているドイツの納税者は、怒髪天を突く思いであったろう。
さらに、ここでギリシアに甘い顔を見せれば、他の南欧諸国の緊縮反対派が勢いづくことが目に見えている。ドイツのメルケル首相は、チプラスに花を持たせることの政治的なリスクは、ギリシアをデフォルト(債務不履行)に追い込んで数十兆円の債権が回収不能となる経済的なリスクよりも大きいと腹を括ったようであった。一歩も譲らず、むしろ不信感を露わにして態度を硬化させながら、厳しい緊縮財政の実施を迫り続けた。
一方、ギリシア人に関しては、ドイツ人の言いなりになるのが悔しいからといって、まさかユーロ離脱に繋がるデフォルトを選ぶわけはないと誰もが考えた。
だから、交渉が大詰めを迎えるたびに、ギリシアの譲歩を見込んで株が買われ、チプラスのちゃぶ台返しに遭って売り込まれるというドタバタが繰り返されたのである。
緊縮受け入れの是非を国民投票にかけ、反対を呼びかけ、その舌の根も乾かぬうちに敵の要求を丸呑みして緊縮を受け入れる。いったいチプラスは何をやりたいのか、いたずらに自国の経済を混乱させたいのか、と訝いぶかしく思った。
しかし、よく考えてみれば、チプラスは、国民投票の勝利によって、党の内外のライバルに自らの人気を誇示し得たのであろう。2005年の郵政解散によって政権基盤を強化した小泉純一郎首相の手法に通ずるものといえようか。
※マネーポスト2015年秋号