「2012~2015年までの50円近い円安進行は、もちろん日銀の大規模な緩和政策の影響が大きいですが、その一方で、輸入企業による実需取引が円安を支えていた側面もありました。しかし、円安の勢いが弱まり始めた2015年度の貿易収支に目を向けると、2014年度に比べ10兆円ほど貿易赤字が減少し、ドル買い/円売りの実需取引額は一気に萎んでいます」(水上氏。以下、「」内同)
2011年の東日本大震災以降、原子力発電所の稼働停止に伴い、LNG(液化天然ガス)を大量に輸入する必要があったことも関係し、2014年には戦後最大の貿易赤字となったが、2015年以降は歴史的原油安によるLNGの価格低下で、輸入額が減少し、貿易収支を改善させた。
「状況に応じて実需勢や資本筋は相場に一方向へのフロー(資金の流れ)を作ります。彼らはたとえば米ドル買い/円売りをしても、投機筋のように細かく決済しないため、グイグイと相場をリードします」
プラザ合意前の1ドル=260円時代から1ドル=75円時代まで、外為ディーラーとして長く相場を見続けてきた水上氏の経験上、実需筋の円相場への影響度は相当大きいという。また最近の相場の値動きには、貿易黒字時代の特徴が出始めているとも指摘する。
「2016年の円相場を振り返ると、貿易黒字だった時代の動きに似てきています。貿易黒字時代は、ジリジリと少し時間をかけて円安になり、一瞬でストンと円高になる動きが散見されました。今年の2月以降、この動きが2~3か月ごとに訪れている印象です。もちろん円高要因は他にもありますが、今後、1ドル=80円台の円高水準に戻るという予想も、現実からかけ離れた予想とは言い切れません」
最近の円高要因は日銀緩和政策への失望やアベノミクスの失敗などとも言われているが、今後の円相場を見るうえで、貿易収支にも注目しておきたい。