高齢化社会である日本では、年々、65才以上のひとり暮らしが増えているという。平均年齢が男性よりも高い女性については、2040年に65才以上の4人に1人がひとり暮らしになると予想されている。高齢のひとり暮らしというと健康不安や生活の不便さなどさまざまな心配事も思い浮かぶが、一方で60才を過ぎたら「ひとり暮らしのほうが楽しい」という人は多いという。
大阪府門真市にある、つじかわ耳鼻咽喉科院長の辻川覚志さんが2012~2014年にかけて60才以上の男女約1000人に聞き取り調査をしたところ、配偶者や子供など家族と同居する人よりも、ひとり暮らしの人の方が、すべての年齢層で日常生活に対する満足度が高いことが明らかになった。ひとり暮らしをする高齢者は、その生活を楽しんでいるのだ。
「オバ記者」の愛称でおなじみのフリーライター・野原広子さん(63才)は、24才で結婚した4年後に離婚を経験。30才手前から始めたひとり暮らしの舞台は、いつも東京のど真ん中を選んできた。
「離婚した直後は千葉に住んでいたけれど、その後、中野に引っ越して、神宮前三丁目(渋谷区)、本駒込(文京区)、日本橋浜町(中央区)、いまは秋葉原(千代田区)に落ち着きました。本気で独身貴族を貫く人たちはコツコツ貯金してマンションを買うみたいだけれど、私はそんな目標を掲げた生活は耐えられないから、その日暮らしの都会の賃貸で充分。決して褒められることではないけれどね」(オバ記者・以下同)
60才を過ぎてからのひとり暮らしに、都会はピッタリとオバ記者は言う。周囲に人は大勢いるが、田舎の親族やご近所さんのように何かと干渉してくることはなく、朝から晩まで商業ビルの明かりがついているため、真っ暗闇を孤独に歩く恐怖もない。
「ただし、住んじゃいけない街もあるよ。いわゆる、“子育てしやすい街”は危険。名門私立の小学校を目指す意識高めのママたちが住んでいるような街は、規範があって、高齢者のおひとりさまには肩身が狭く感じるのね。しかも、賑やかな家庭に囲まれた通りで、夕暮れに漂ってくるサンマのにおいなんか嗅いでごらんなさいよ。せっかくご機嫌にひとり暮らししていたのに、ふと寂しさを思い知らされて足をすくわれるわよ。だから、『こんなとこ人が住めるの!?』っていう極端な都心がおすすめ」
朝起きて、部屋着に上着を羽織れば散歩がてらデパートにも行ける。有名ホテルでふらっとランチだってできる。もちろん、お金がなければ買い物も外食もできないが、人々がおめかししてはるばるやってくる場所に暮らすというのは、気分的に「これ以上の贅沢はない」という。