老後の家族関係に悩む人は少なくないが、長年連れ添った妻だけは離れていかないはずだ――そんな考えも、もはや幻想に近い。独身研究家の荒川和久氏が指摘する。
「ある調査で夫婦に『生まれ変わったら同じ人と結婚したいか?』と質問したら、夫の6割はイエスと答えましたが、妻でそう答えたのは3割に満たなかった。私が直接既婚男性に尋ねるとほぼ全員が『ウチだけは大丈夫です』と答えましたが、その自信にはほとんど根拠がありません」
裏を返せば、“夫と結婚したのは間違いだった”と考える妻が7割いるということだ。背景には、夫が妻に家のことを任せきりという現状がある。愛知県の60代主婦が振り返る。
「結婚後に夫の両親との同居を始めましたが、新婚当初からずっと家政婦扱いをされました。私が平日に友達とランチに行こうとすると、『私たちのお昼ご飯を作ったら行っていいよ』と夫や義父母から当たり前のように言われ、正月に義理の姉が子供を連れてやって来た時は、全員分のご飯を作って後片づけをするのは必ず私の役目。義理の姉は何もしませんでした。夫は税理士で、実家は裕福なのでいい思いもさせてもらっていますが、家事の丸投げには不満しかありません」
埼玉県の50代主婦も憤りを隠さない。
「『俺は仕事で稼いでいるから』が口癖の夫は、家事を何も手伝いません。私が一生懸命ご飯を作っても、気に入らないと『もう、いらない』と外に食べに行ってしまいます。夫は来年、定年を迎えますが、リタイアしたら何かが変わるのだろうかと不安と期待が入り交じっています」
この女性の期待は、裏切られる公算が大きそうだ。定年を迎えると、それまでの家庭を顧みなかった態度がウソのように、妻に甘えるようになる夫が多いという。
「会社を辞めて職場というコミュニティを失い、自宅しか居場所がなくなると、自分の社会的役割の担保を妻に求めるようになるんです。まるで母親に甘えるかのように夫が妻に依存するようになるケースが多い。特に現役中に仕事に没頭して趣味のなかった人ほど、定年後に妻に依存する傾向が強い」(荒川氏)