これまで苦労した妻が、定年後の夫の心変わりをすんなり受け入れるとは限らない。むしろ夫の定年後に「復讐の時間」が始まることが少なくない。都内在住の60代女性が、してやったりの表情で語る。
「現役時代に家事を何もしなかった夫は定年後にやることがなくなり、『女房に置いていかれたらどうしよう』と不安に駆られたようです。私にへそを曲げられたら困るからと、夫は私の予定を2週間先まで聞いて、それと差しさわりない予定を組むようになりました。現役時代と立場が逆転して精神的に優位に立ったので、今では『あなたのお昼は作らないから、適当に食べてね』と言い残して友人とランチに出かけています」
一方、大企業の70代元会社役員の男性は肩を落としてつぶやく。
「現役時代は家のことは妻におんぶにだっこで、外では浮気をしたこともありました。でも、定年後は枯れてしまって愛人をつくる気力などなく、妻との離婚も考えられません。すると妻は私の足元を見てか、『もう家事は一切しません』と宣言し、『現役中は私が浮気に苦しめられたから、今度は私の夢のためにお金を出して』と小さな美容サロンの開業資金を要求してきました。私に断わる術はなく、退職金から資金を捻出しました」
こうした仕返しは特殊な事例ではないという。シニアライフアドバイザーの松本すみ子氏が世の男性に警鐘を鳴らす。
「男性は『そんな昔のことを言われても』と言いがちですが、浮気されたり育児を手伝わなかったりといった過去の恨みを女性は忘れません。現役中に『稼ぐのは俺で家のことは妻』などと頼りになる妻に任せきりにしていると、後で手痛い逆襲を食らいます。夫が年老いて体が不自由になってから、『あの時の辛さは忘れない』と数十年前の出来事を持ち出し、夫のケアをわざと手抜きする鬼嫁もいるほどです」
家事育児だけでなく、近所づきあいも妻任せという男性は少なくない。千葉県の70代元会社員が語る。
「現役中は近所づきあいをほとんどせず、マンションの管理組合の総会にも妻が出席していた。周囲に言われて妻が管理組合の理事長をやったことがあったけど、私は全く関心がなかった。定年後も総会に出るのは億劫で、妻に出てもらっています」
松本氏はこの男性のような対応は、望ましくないと指摘する。
「老後の男性にとって最大のリスクは、地域社会で孤立することです。妻のほうが先に要介護になったり亡くなったりした場合、普段から近所づきあいをしていない夫は誰からも助けてもらえません。できるだけ早いうちから、地域社会と接する努力が必要です」
※週刊ポスト2021年5月28日号