自分がこの世を去った後、子にかかる負担はできるだけ少なくなしたいと思う親は多い。だが、自宅の売却や現預金の不動産化、生前贈与など、子供のためにしたことが裏目に出るケースもある。
長年、住み慣れた自宅であっても「子供のため」を考えたら、“早めにたたんでおいたほうがいい”という考え方が根強くある。息子や娘に、片付けや売却などの負担をかけないため、“家じまい”を勧める情報やサービスが巷に溢れている。
住宅ジャーナリストの榊淳司氏は「団塊前後の世代が持つ不動産資産は、その子世代にとっては価値がない」と指摘する。
「親世代にとっては、芝生のある郊外の一戸建てをマイホームにするのが理想であり、夢だった。近所には同じような年代の家族が住んでいて、洗車しながら会話を弾ませたり、週末に庭で一緒にバーベキューをしたりして盛り上がる生活を思い描いて、住宅を購入している。
それが何十年か経つと、高齢者しか住んでいない街になるわけです。子世代にとっては、受け継いで移り住みたいとは思わないですよね」
だからこそ、子供に迷惑をかけないようにと親が早めの処分を考えるわけだが、やり方次第では大失敗になる。
そんなに安いの!?
関西地方に住む68歳男性は、60歳で勤め先の企業を定年退職後、別の会社に再就職した。自動車通勤から電車通勤に変わったことをきっかけに、郊外の戸建てを処分して駅に近いマンションに転居した。
「2人の子供が結婚して家を出たこともあり、私と妻が住むには広すぎるかなと考えて、築8年のマンションを買いました。自宅は不動産業者が買い取ってくれたので、貯金を取り崩してなんとかローンなしで購入できた。オートロックで防犯もしっかりしているし、スーパーやコンビニが徒歩圏にあって最初は快適でした。ただ、そのうちに子供たちが遊びに来ても泊まっていくスペースが足りないといった不満が出てくるようになった。
しかも、戸建ての時にはなかった毎月の管理費や修繕積立金があり、大規模修繕の時には一時金の負担を求められることもあるという。戸建てなら自分で工夫しながら手入れして節約もできたけど、マンションだとそうはいかないとわかった。もちろん固定資産税もあるから、年金生活者には負担が大きい。しかも、マンションは築10年を超えると評価額がどんどん下がるとも聞く。不安ばかりが募ります」