自分がこの世を去った後、子にかかる相続税の負担はできるだけ少なくなしたいと思う親は多い。しかし、自宅の売却や現預金の不動産化、生前贈与など、子供のためにしたことが裏目に出るケースもある。
「子供のため」を思った行動で最も直接的なのが、「生前贈与」だろう。2015年の法改正により、相続税の基礎控除が削られた。課税強化を受け、中流層も“生きているうちに財産を子や孫に渡さなくては”と頭を悩ませているが、こうした対策が裏目に出るケースも少なくない。
首都圏に一戸建てを持つ60代男性の資産は、預貯金と不動産を合わせて約8000万円。相続人は3人の子供なので、基礎控除は4800万円となり、「資産から3000万円を減らせば相続税がかからなくなる」と考えた男性は、「1人毎年110万円までの贈与は非課税」という暦年贈与の仕組みを利用する計画を立てた。3人の子供に毎年100万円ずつ、10年にわたり銀行振り込みで贈与を行なった。
父親から「相続税は心配しなくていい」とだけ聞かされていた子供たちだが、男性の死後、当てが外れて総額300万円以上の相続税を払うことに。一体何が起きたのか。
問題は暦年贈与のやり方だった。男性は贈与の入金先とした子供名義の口座を自ら管理。子供たちも、贈与の具体的な事実を把握していなかった。円満相続税理士法人代表の税理士・橘慶太氏が解説する。
「この男性が贈与のつもりで行なった預金は、死後の税務調査で“名義預金”とみなされ、子供たちとの間の贈与契約は認められなかった。3000万円は遺産として相続税が課されました」
こうした事態を避けるには、「贈与契約書」を作成する必要がある。
「ポイントは、氏名を必ず直筆にすること。税務調査では筆跡が重要な証拠として扱われます。また、贈与契約書は贈与をするたびに毎回作るのが望ましい」(橘氏)
※週刊ポスト2021年6月4日号