新居は、夫の実家からの援助もあって、通勤に便利な都心にマンションを購入し、高価な家具も全て揃えてもらったという。A子さんも建設会社に内定が決まっていたが、夫を支えるため家庭に入り、ほどなくして無事女の子が産まれた。
「しばらくは育児に追われながら暮らしていたのですが、SNSなどで社会人になった友人の楽しそうな投稿を見る度に、少しずつ嫉妬にかられるようになったんです。友人には、『専業主婦でエリートの旦那がいて羨ましい』と言われますが、本心では憐れまれているような気がして……。もちろん娘は可愛いです。でも、ママ友は歳が離れている人が多くて話が合わないし、実家にも簡単に帰れないので相談相手もいない。『今のままで良いのかな?』と思うようになっていきました」
サバの塩焼きに少し火が通っていなかっただけで
娘が1才になった頃、A子さんは「働きたい」と夫に伝えた。
「近くに1才から預かってくれる保育園もあったので、今からキャリアを積んでも遅くないと思ったんです。とにかく一度はどこかに就職したいと夫に相談しました。すると夫は、顔を真っ赤にしてこう言いました。『ふざけるなよ! なんでお前なんかと結婚したと思ってんだよ。子供を堕ろしても良かったけど、世間体もあるしって親が言うから、きちんと籍を入れて面倒見てやってんのに、何が不満なんだよ』って、怒鳴り散らしたんです」
実は、夫がA子さんに声を荒らげるのはこれが初めてではなかった。学生時代、夫は誰に対しても優しいと周りから尊敬される存在だったが、結婚するとその印象は大きく裏切られた。毎日早朝に出社し深夜に帰宅する仕事のストレスからか、育児に追われるA子さんに優しい言葉をかけることはほとんどなく、顔を合わせる少しの時間も嫌悪感を露わにするようになっていた。
「夫が少しでも癒されればと、最初の頃は娘の写真を送ったり、日々の成長を報告したりしていたのですが、大きな声で『報告とかいいから。主婦は良いよな、3食昼寝付きで』、『そんなに暇なの?』と迷惑そうな顔で言われることもしばしばありました」
働きたいと告げてからは、A子さんへのモラハラはさらに激化。A子さんが何も言っていない時でも、酒に酔っては「1回死ねば?」、「おまえなんて生きる価値無いわ」などと絡むようになった。一度こうなってからは、ダムが決壊するように夫のモラハラは勢いを増し、夕食のサバの塩焼きに少し火が通っていなかっただけで「俺を食中毒で殺す気か!」、「俺はお前と違って100倍の価値があるんだよ!」と激昂し、娘の前で皿ごとひっくり返したこともあったという。そんな日々が7年以上も続き、いよいよ耐え切れなくなって後藤さんのもとを訪ねたのだ。A子さんが続ける。