逆に言えば、テレビ番組のクイズ王のように、丸暗記した知識で答えをポンと出すのが得意な人間は、むしろコンサルタントに向いていない。コンサルティングを頼む側は、前例がなくて答えがわからない問題に直面しているから高い料金を払ってコンサルタントを雇うわけで、それに対してゼロから答えを導き出せる人間でないと、そもそも仕事が務まらないのだ。
思考は自分に質問を重ねることで深まり、全体的・立体的につながっていく。
具体的には、まず、その問題について前提条件を整理し、仮説を立てて解決策を考える。そして、それが起承転結で論理的に結論まで組み立てられるかどうかをデータ(証拠)に基づいて縦横斜めから検証する。これは78歳になった私自身が今でも実践している思考方法にほかならない。
そういう考え方の「癖」を持っている人は、ビジネスの世界でも、学問の世界でも、世界のどこでも、自分の力で問題解決ができる。つまり「考える力」には無限の価値があるのだ。したがって、その能力を文科省と学校は最も重視して伸ばすべきなのである。
21世紀は「答えが見えない時代」である。一方、答えがある問題はスマホで検索すれば済む。普段の仕事では、あらゆる人に意見を聞いたり答えを教えてもらったりする局面とゼロから自分なりの答えを導き出せる能力が重要であり、この二つの能力のどちらに偏ってもいけないと思う。そういう前提からすると、大学入学共通テストだけでなく、今の○×式による暗記偏重の入試はすべて「百害あって一利」なしである。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『大前研一 世界の潮流2021~22』(プレジデント社)など著書多数。
※週刊ポスト2021年8月27日・9月3日号