その他の財産についても、現在は毎年110万円まで非課税となる暦年贈与が使える。曽根さんは、自宅を残すなら、焦って贈与せず、相続にした方がメリットは大きいと話す。
「もし贈与税を節税することができても、夫から妻への名義変更のための登記費用や不動産取得税などはかかるため、数十万円単位の出費は避けられません。現在、相続時の配偶者への特例は幅広い。夫が亡くなった場合、妻は『配偶者の税額軽減』によって相続財産1億6000万円まで(または法定相続割合以下)は相続税がかかりません。よほどの豪邸でない限り、相続税は払わなくて済むのです。
また、夫婦で同居していれば、330平米までの土地なら『小規模宅地等の特例』が適用される。自宅の評価額が80%減額されるので、かなりの節税になります」(曽根さん)
2019年の相続法改正の目玉は、夫が亡くなっても妻が自宅に住み続けられる「配偶者居住権」だ。
それまでは、自宅は評価額をもとに現金に換算し、その他の財産と合算したうえで、子供などほかの相続人と分割しなければならなかった。財産が少ない家庭の場合、遺産分割のために自宅を売却してお金をつくらなければならないケースもあったのだ。それが、配偶者居住権によって、自宅はそのまま妻が住み続け、その他の財産だけを分割すればよいことになった。つまり、一般的な家庭であれば、夫が亡くなっても、妻は自宅を失わず、ほかの財産も非課税で相続できることがほとんどなのだ。
子供に自宅を生前贈与してはいけない
1億6000万円以上の財産や、複数の不動産を持つ家庭でなければ、夫から妻への相続には、税金はかからない。税制が変わるからといって、慌てて贈与するよりも、相続まで待った方がメリットは大きい。ただし、注意点はある。
「相続まで待つといっても、夫が亡くなってからでは遅いこともあります。夫の死後、親族で揉めて遺産分割協議がまとまらなければ、こうした特例は使えなくなる場合があるのです。スムーズな遺産分割協議のため、生前に遺言書を用意しておくことが大切です」(曽根さん)
特に、配偶者居住権は夫が亡くなって初めて妻が主張できる権利。夫が元気なうちに「妻にはこのまま自宅に住み続けてほしい」といった内容の遺言書を残してくれれば、自宅の心配をする必要はない。