だがコロナ禍の煽りを受け、その自社ビルを売却することになった。
「聞いた時は衝撃的でした。とうとうここまで来たか……と。いまの状況では仕方がないと思いますが、やっぱり悲しいですね」(同前)
売却によって得られた資金は数百億円と報じられている。今後も賃貸契約を結んで同ビルで業務を続けるとされるが、同社が重大な岐路に立たされていることは間違いない。
淑徳大学経営学部観光経営学科学部長・教授で観光ジャーナリストの千葉千枝子氏はこう分析する。
「JTBは来年には創設110年の節目を迎えることもあり、“次の100年も生き抜く”という覚悟で売却を決断したのではないか。短期の資金調達として、過去の遺産の売却は正攻法です。まずは手元資金を保有することが先決と判断したのでしょう。自社ビル売却は、これからが正念場であることの象徴といえます」
来夏までボーナスなしを決定
コロナの影響が直撃した旅行業界。JTBも壊滅的な打撃を受け、2021年3月期の連結決算は、最終損益が過去最大となる1051億円の赤字に落ち込んだ。
売上高は1兆2886億円だった前年から71.1%減の3721億円に。部門別に見ると、国内旅行が前年比66.4%減、海外旅行にいたっては前年比94.9%減という惨憺たる数字だった。借入金も過去最多の1076億円にのぼっている。
「JTBは“上場していない優良企業”の代表的な会社として知られてきました。その背景には、主要株主であるJR東日本などとの関係が密接であったことが挙げられます。しかし、JR東日本もステイホームの長期化で鉄道利用が落ち込み、エキナカ商業の業績不振も鮮明になっていて、JTBに救いの手をさしのべる余裕がないのです」(前出・千葉氏)
決算発表時、JTBはグループ従業員の4分の1にあたる「7200人の人員削減」、「国内115店舗の閉鎖」などを進め、「ボーナスを2022年夏までゼロとする」方針も示した。
「ボーナスは2021年夏は支給せず、冬も支給予定はありません。2022年以降については夏は予算化してなく、冬は未定となっています」(JTB広報室)