1939年9月にイギリスがドイツに宣戦布告してから、翌年5月に戦火を交えるまで続いた「奇妙な戦争」のような状態かもしれない。
いずれ、新たな貿易協定を巡って、イギリス─EU間の熾烈を極める交渉が始まる。各国の有力政治家から過激な発言が飛び交い、市場を動揺させるさまは想像に難くない。
加えて、EU圏内では、向こう1年ほどの間に、フランス大統領選、ドイツ連邦議会選など重要な政治イベントが目白押しである。そのたびに反EU派の伸張に神経をすり減らさなければならない。
ただ、ブレグジットの一件は、反EU派が選挙に勝っても、一夜にしてEUが破壊されるわけではないことも教えてくれた。金融不安に火がつかない限り、世界の株式市場は、案外冷静に対応するかもしれない。
ただし、我らが日本株に関しては、強烈な円高の直撃を覚悟しなければならないが。
◆ユーラシア大陸の東端と西端で軍事大国が既存の国際秩序に反発
そして、11月には、もっと重要なアメリカ大統領選が控えている。
ブレグジットが現実のものとなった時、私自身がそうであったように、多くの人がドナルド・トランプ大統領誕生の恐怖に慄いたのではあるまいか。
トランプ候補の躍進とEU離脱派の勝利を支えたのは、いずれも、数十年にわたって経済成長のために切り捨てられてきた白人の低所得層である。人種的なマイノリティをスケープゴートに仕立て、ファナティックなナショナリズムを煽る手法も見事に一致している。
この英米両国の状況は、否応なく、100年ほど前、この手法によって政権を得て、世界を道連れに自国を破滅へと導いた独裁者を思い出させる。
ブレグジットが私たちに与えた眩暈のするような衝撃の正体は、おそらく、あの悲惨な戦争の記憶なのだろう。