10月20日からマイナンバーカードを健康保険証として使う「マイナ保険証」の運用が始まったが、普及するまでにはまだまだ時間がかかりそうだ。なぜ日本の行政のデジタル化は遅れているのか、そして9月に発足したばかりの「デジタル庁」はどうあるべきなのか。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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岸田文雄内閣の発足に伴い、9月に就任したばかりのデジタル相が牧島かれん氏に代わってしまった。
しかし、前回も述べたように、牧島氏がデジタル相に適任かどうかは甚だ疑問である。平井卓也初代デジタル相や赤石浩一デジタル審議官と同じく、NTTから高額接待を受けていたと報じられている。経歴を見ても、デジタル庁の創設にあたり自民党の推進本部で組織や役割について提言を取りまとめたそうだが、学歴はICU(国際基督教大学)教養学部卒業、米ジョージワシントン大学ポリティカル・マネジメント大学院修了、ICU大学院行政学研究科博士課程修了と畑違いだ。どのようにデジタル庁の舵取りをしてデジタル改革を推進するのか、お手並み拝見である。
インド版DB開発者の抜擢も
そもそもデジタル庁は「庁」ではなく「省」にして、他の省庁よりも上位にすべきであり、その「デジタル省」に求められるのは、日本の行政サービスを根本からデジタル化して作り直す国民データベース(DB)の構築だ。これは私が1993年に上梓した『新・大前研一レポート』(講談社)以来、繰り返し提言してきた構想である。
その内容を改めて説明すると、まず家父長制に基づいた明治時代以来の古い戸籍制度を廃止して、世帯・家族・縁戚関係など個人を取り巻く親族が把握できるフラットなリレーショナルDBを作り、そこに健康保険、税金、年金、自動車運転免許などの国家資格、パスポート、医療データといった個人情報をすべて収容し、指紋・掌紋・虹彩・顔などの生体認証を採用する。そして選挙の投票もスマホやPCから電子的に行なえるようにすれば、国政選挙も地方選挙もすべて同じシステムで事足りる。世界のどこにいても投票が可能になり、票数も投票が締め切られたら瞬時に集計できる。
海外の場合、エストニア、アメリカ、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、フィンランド、シンガポール、台湾、韓国、中国など多くの国に国民のデジタルID(識別番号)があり、個人と国が住民登録や社会保障、税務などで電子的につながっている。だが、日本にはそれがない。だから新型コロナウイルス対策の10万円給付やワクチン接種にも手間取ったのである。