新規雇用12万人、時給2000円
アマゾンは9月、アメリカの倉庫や物流部門で働く従業員の最低時給を平均18ドル(約2000円)超に引き上げ、新たに約12万5000人を雇用する計画を発表した。一部地域では雇用時に最大3000ドル(約34万円)の一時金を支給するという大盤振る舞いだ。
さらにすごいのは、約75万人の従業員に対して、学士号や高校卒業証書などの取得費用を負担する制度の創設だ。来年1月からスタートし、英語を母語としない従業員の英語資格などの関連費用も対象だという(入社90日目以降)。
もちろんアマゾンはロボットもフル活用しているが、そこまで待遇改善に大きな投資をして従業員を確保しなければならないほどアメリカの物流業界は人手不足なのであり、企業が必要に迫られれば賃上げや分配は進むのだ。
日本でも、そのヒントはある。いま私が注目しているビジネスは「ライブコマース」だ。企業や個人がウェブサイトやSNSなどでライブ配信を行ない、視聴者とダイレクトにコミュニケーションを取りながら商品をPR・販売するのである。すでに中国では1人のインフルエンサーが年間40億円以上を売り上げたりしているが、日本でもバニッシュ・スタンダードなどのスタートアップが登場し、店員が自発的に顧客に呼びかける仕組みを提供している。それらの企業では、月給16万円ほどだったアパレル店員が、その4~5倍の給料を稼いでいる。
このような新しいビジネスは、決して政府が上から指図して生まれたり、成長したりするものではない。そうした経済の実態を岸田首相は理解しているのだろうか? 理解していたら、政府主導の「所得倍増」や「成長と分配」といった発想は出てこないと思う。
岸田首相は、まず実体経済と最新ビジネス事情を、しっかり勉強すべきだろう。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『世界の潮流2021~22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。
※週刊ポスト2021年11月12日号