この裁判について、中塚さんはある調査を行った。1000人以上の対象者は「結婚したトランス男性がAIDで子供を持つこと」について、76%が肯定し、さらに80%もの人が「生まれた子供を嫡出子とすべき」と回答した。
この結果を弁護団が資料として用いたこともあり、2013年末、最高裁判所は一審、二審の判決を覆し、父子関係を認めた。
「翌年には、法務省の通達によって、トランス男性も出生届だけで法的な父親だと認められるようになりました。さらに今回の特例法により、“AIDに同意した夫は、生まれた子の父であることを否認できない”ということが決まりました。
ですが、非常に長い間、性的マイノリティーの当事者がAIDで子供を持ちたいと思っても、医療機関で門前払いされることが多かった。そのため、いまでも状況はあまり変わっていません」
その結果、SNS上には、「#精子提供」「#精子ドナー」などのハッシュタグがついたアカウントが並び、医療機関を介さない一般人同士の取引が増えている。
匿名で相手の素性もわからないことも多く、HIVやB型肝炎、梅毒などの感染の恐れもある。悪質になると「タイミング法」などと称し、レズビアンのカップルに執拗に性交を迫るなどのケースもあるという。
なかには、仕事に人生をささげていたり、恋愛対象が男性だったり、さまざまな事情で“女性と結婚はできないが、自分の生きた証を残したい”と考えてボランティアとして行う誠実な男性もいるが、見分けるのは困難だ。
※女性セブン2021年12月2日号