成長と分配の好循環を目指す岸田文雄首相が、自民党総裁選時から主張していた「金融所得課税強化」。政府与党が12月10日に取りまとめた2022年度税制改正大綱では、金融所得課税強化について「検討が必要」とされ、いったんは見送られた格好だ。市場では、金融所得課税が強化されると、これまでの「貯蓄から投資へ」の流れに水を差されることになるのではないか、と批判的な声も多いが、経済アナリストの森永卓郎氏は、「いまの日本の金融所得課税は不公平税制の象徴」と指摘する。どういうことなのか。森永氏が解説する。
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岸田首相が掲げる「成長と分配」の重要な柱だった金融所得課税強化が、あっけなく見送られた。2023年度の改正以降の検討対象として位置付けられたものの、市場関係者や経済界の反発も強く、このまま立ち消えになる可能性もあるだろう。
金融所得課税とは、株式の配当金や譲渡益などの金融所得にかかる税のこと。現在、給与などに対する所得税は、収入が多いほど税負担が重くなる「累進課税」が適用され、税率は最大45%。一方で、金融所得への課税は一律15%(所得税のみ)となっており、金融所得が多い人ほど税負担が軽くなる。本来、所得が増えれば税負担が上がって当然なのだが、金融所得に適用されている分離課税および定率課税のおかげで、金融所得が多い人はどんなに稼いでも税率が変わらない不公平がまかり通っているのだ。
そのため、給与所得が多く金融所得が少ない人は所得税の負担率が上昇し、給与所得が少なく金融所得が多い人は負担率が低下する現象が起こっており、実際、所得税の負担率は年間所得1億以下の所得層をピークに低下する「1億円の壁」が存在している。一般的に税金は、額に汗して稼いだ所得に対しては軽く、あぶく銭には重くというのが大原則だが、現実にはその正反対のことが行なわれているのだ。
しかも、住民税や社会保険料の負担を含めて考えると、さらに理不尽なことが起きている。住民税は、給与所得の場合、所得水準にかかわらず課税所得の10%となっている。だが、金融所得の場合は5%と、給与所得の半分しかかからない。
社会保険料についても、厚生年金と健康保険に負担上限があり、圧倒的に高額所得者に有利な制度となっている。厚生年金の場合、月給65万円までは保険料がかかるが、それを超える給与を得ても保険料は増えない。たとえ月に1億円を稼いだとしても、保険料は月給65万円の人と同じだ。健康保険も同じで、月給139万円までは保険料がかかるが、それを超えても保険料は変わらない。しかもこれは、給与所得に対してのみ。金融所得にはもともと社会保険料が一切かからないことになっているのは、どうにも解せない点だ。