ただ、企業が求める人材(需要)と転職したい人のスキルとノウハウ(供給)が合致すれば決まるのが転職であるから、決まるときにはすぐ決まるものだ。
「おもしろいもので、といってはなんですが、すぐに決まったら決まったで悩む人もいます。30代のある女性はすぐに転職先が決まったらしく、『こんなにすぐに決まるものですか?』といって相談に来られた方がいました。
『こんなにすぐに決まるなら自分はもっと上を目指せるんじゃないか』『もっと他にいい企業があるんじゃないか』『でも、これを断ったらもう次はないかもしれない』と考えて悩みが深まってしまうようなんですね」(錦戸さん)
会社を天秤にかけるのは節操がないとも言えるが、人の情としてはわかる気がする。
「そういう方には、他と比べずに『その会社が自分にとってどうか』だけを考えませんか?とアドバイスしています。そのときに大事なのは、やはり仕事をする上で『自分にとって大事なのは何か』をしっかり持っておくことです。それがないと決断がブレてしまいます」(錦戸さん)
逆に長い期間にわたり決まらなくても、粘った末に希望の転職先にたどり着く人もいる。
「ある40代の相談者さんは、元の会社の大きなプロジェクトの仕事をこなしながら、合間に転職活動を続けて、1年後に転職できました。その方がやり取りした企業は9社。面接やメールのやり取りを続ける中で、自己アピールの仕方もどんどん上手になっていきました。時間をかけて活動経験を積み重ねていくのも悪くはないのです」(錦戸さん)
転職先が決まらない時には相応の理由があると謙虚に考えることが必要だ。その上で、「自分を生かせる場はやっぱり今の会社だ」と気づいて働き続けることもあるかもしれない。それはそれで意味のある転職活動だったと言えるのではないか。
転職の可能性を完全に断ち切ってしまわずに、何年もかけて細く長く転職活動を続けていくのも、またアリだろう。会社もそれぞれだし、転職理由や転職期間もまた人それぞれ。自分で納得できる転職のために、履歴書をまとめておく、自己PR力を高めておくなど、いつどんなボールが来ても受け取れる態勢は整えておきたいものだ。
取材・文/岸川貴文(フリーライター)