異動の希望もすぐに聞いてもらえた
こうした事例は、なにもAさんに限ったことではないようです。あまりにも離職者が多い会社に新卒からずっと残っているため、途中から上司がどんどん優しくなっていったという例も聞きました。某社の係長クラスの30代男性・Bさんは、30人入った同期で5人だけ残った内の1人です。Bさんはこう語ります。
「10年ぐらいで83.3%が辞めちゃったんですよ! 辞めた理由は人それぞれですが、今でもその同期とは時々飲んでます。色々な業界に知り合いが増えていく感じはいいですね。
あと、大きかったのは、異動の希望を聞いてもらえたこと。というのも、妻とは東京で出会ってそのまま結婚したのですが、ある時、『地元に帰りたい』と言い出したんです。僕としては仕事のことがあるので東京に残りたかったのですが、妻があまりにも強く主張するので、ダメもとでその都市にある支社への異動を上司に相談したら、なんと、すぐに異動できました! 多分、残った16.6%の貴重な新卒に辞めて欲しくなかったのではないでしょうか」
結局、離職率が高い企業であったとしても、幹部はその会社に長年いる人がほとんどなわけで、単純にいえば「相性が良かった」ということなのでしょう。周囲がバンバン離職し、「私も転職しなくちゃこれからの時代通用しないのでは……」なんて焦る気持ちもあるかもしれませんが、残り続けるとその会社で案外色々といい思いができるかもしれません。報われることは多いと思いますよ。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『炎上するバカさせるバカ 負のネット言論史』(小学館新書)。