田代尚機のチャイナ・リサーチ

トルコ金融市場急変の背景に「エルドアン大統領の奇策」「米国利上げ見通し」

トルコから資金流出が進んでいる背景に何が(エルドアン大統領。Getty Images)

トルコから資金流出が進んでいる背景に何が(エルドアン大統領。Getty Images)

 利回りの高さから、根強い人気のあったトルコ・リラ建て債券。通貨や、株式を含む投資信託なども合わせ、トルコ関連の金融商品に投資する日本人投資家は少なくない。そうした人たちにとっては現在、トルコの金融市場で起きている変化は大いに気になるところだろう。

 秋以降、強い上昇トレンドが出ていたイスタンブール100種株価指数だが、12月16日終値は2278.55であった。それが17日にはサーキットブレーカーが作動する中で▲8.5%下落、20日も下落率は小さかったものの、場中でサーキットブレーカーが発動した。その後も下落が止まらず、休日を挟んで4日続落、22日には1804.15で引けており、この間の下落幅は▲20.8%に達した。急激な資金流出が起きているのだ。

 エルドアン大統領は、「インフレは結果であり高金利が原因である」と、金利を下げれば自ずとインフレも解消されると主張している。8月の消費者物価指数(CPI)は19.25%上昇と政策金利を上回ったのだが、金利を上げてインフレを退治するといった常識的な金融政策ではなく、真逆の利下げを行った。

 9月、10月、11月、12月と連続して政策金利を引き下げ、実質金利をマイナスに維持する政策を加速させているのだ。

 2020年前半は新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて景気は大きく後退したが、思い切った景気刺激策によって2020年後半以降は回復基調にある。

 本来は2023年6月に予定されていたトルコ大統領選挙について、政治的な理由から2022年前半にも繰り上げて実施される可能性が出てきたようだ。選挙に向けて支持率を高めておきたいエルドアン大統領は、景気減速だけは避けたい。利下げによって実質金利を低くすることで投資を拡大させ、景気を一層力強く回復させる政策に打って出た。

 しかし、多くの資金は投資には向かわず、金融市場に留まり、カネ余り現象を引き起こした。

 トルコが金利を引き下げる一方、米国ではインフレを抑えるために金融(量的)緩和政策を終わらせ、2022年には利上げが始まる見通しが強まってきた。金利差の縮小は当然、為替レートの低下を引き起こす。こうした内外の要因から9月以降、トルコ・リラ対ドルレートは下落トレンドとなった。

 通貨安は輸入コストの増大を通じてインフレを加速させてしまう。結局、11月のCPIは21.31%上昇となり、インフレは収まるどころか加速した。ちなみに、12月中旬までの株価上昇は過剰流動性の発生が要因とみられる。

 トルコは金融市場の開放が比較的進んでおり、外資による投資が経済を牽引する重要な要素となっている。金融緩和による経済浮揚効果への期待が高い内はよいが、通貨安による減価リスクへの懸念が強まればどうなるか。それに個人によるキャピタルフライト(資本逃避)が重なったらどうなるか。こうして、急激な資金流出が起きたのである。

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