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ブランド品の価値が消失? 評判経済で「お金をどう使うか」という問題

大富豪ながら5万ドルの「極小住宅」で暮らしているというテスラ社のCEO、イーロン・マスク(Getty Images)

大富豪ながら5万ドルの「極小住宅」で暮らしているというテスラ社のCEO、イーロン・マスク(Getty Images)

――モノの価値がなくなっていくと、人々の消費行動も大きく変わります。

橘:日本では若者のファッションがどんどん地味になっていますが、これは消費文化を牽引してきたアメリカも同じで、若者たちはモノへの興味を失っているといいます。北米の大人たちはこの10年で、ティーンエイジャーへのプレゼントに何を贈ったらいいか頭を悩ませるようになったそうで、流行のスニーカーやバッグをプレゼントしようとしても、「そんなのいらない」といわれてしまうのです。

 そんな若者たちがこころの底から欲しがっているのがSNSの評判です。重要なのはヴァーチャル世界で注目されることで、インスタに載せる自撮りのファッションは別として、リアルでどんな格好をしていても気にしなくなっていくのではないでしょうか。

 アメリカのミレニアル世代(1980~1995年生まれ)の間では、必要最小限のモノだけで暮らす「ミニマリズム」が広がっています。さらには、できるだけ多く貯蓄し、金融資産を運用してできるだけ早く経済的独立を達成する「FIRE(Financial Independence, Retire Early)」の運動も若者たちの心をとらえています。

 収入の大半を貯蓄するには質素な暮らしをする以外ないのですから、FIREもミニマリズムの潮流の一部です。FIREが目指すのはお金持ちになって豪勢な暮らしをすることではなく、自分らしく自由に生きることで、お金から自由になるためにこそ、人生に必要なお金を先に手にしてしまおうと考えているのです。

「効果的な利他主義」という考え方

―― 一人ひとりが「評判」を得て、FIREを達成することができれば、煩わしい人間関係のしがらみやストレスからも解放されそうです。

橘:私はリベラル化を「自分らしく自由に生きること」と定義していますが、世界がますますリベラルな価値観に支配されるなか、これからは「雇われない生き方」を目指す流れ(フリーエージェント化)が広がっていくでしょう。これは見方を変えれば「会社や他人に頼らなくていい生き方」であり、リベラル化によって共同体は解体し、一人ひとりが「自分らしく」ばらばらに生きていくことになります。

 こうして、SNSで浅く広い人間関係をつくる一方で、リアルな人間関係は家族や恋人だけの(半径10メートル以内の)ミニマルなものに収縮していくのではないでしょうか。とりわけ、すべてのニーズを市場で調達できる富裕層にこの傾向が強くなるでしょう。

 しかしだからといって、富裕層がみなエゴイストというわけではありません。使いきれないお金は金融機関のサーバーに格納されたたんなるデータにすぎず、それを評判に換えなくてはなんの意味もないからです。こうして欧米を中心に、「効果的な利他主義」という考え方が広がりつつあります。

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