実勢価格とかけ離れた評価額
こうした山崎さんの苦悩には「だったら資産を売ってしまえばいい」、というツッコミも入りそうだが、そう単純ではない。
「売れる不動産はすべて、閉業直後に約500万円で売りました。しかし、売れ残った不動産については、値下げを繰り返して今は200万円台で買い手を探しています。それでも、過疎地であることやコロナの影響もあってまったく買い手がつきません。不動産業者に『上物を壊したほうが良い』と勧められたので、業者に見積もりを取ったところ、取り壊し費用は1000万円以上。もちろんそんな蓄えはありません」
まさにがんじがらめ状態の山崎さんは、藁にもすがる思いで課税者である市役所に相談を持ち掛けたが、その対応は冷淡だったという。
「担当者は、『こちらからは、不動産の買い手を探してくださいとしか申し上げあられない』と繰り返すばかり。2020年度分については納税猶予してもらえる特例もありましたが、滞納分に関しては適用されないとのことでした。
そもそも、3800万円という固定資産税の評価額が、実勢価格とかけ離れ過ぎています。市のほうで公売にかけてもらえれば、買い手がつかない現状を分かってもらえると思うのですが、そういう動きもなく、滞納分の督促状が送られてくるばかりです。市には土地と建物の無償提供も申し出ましたが、相手にされませんでした」
筆者は、同市の課税課に固定資産税が滞納されている不動産が公売にかけられるまでの過程について問い合わせてみた。しかし、「一定期間滞納が続いていて、今後も納付いただく見通しが立たないと判断された場合にのみ、公売の手続きに移行させていただく。判断を下すタイミングについては、ケース・バイ・ケースです」(担当者)とあいまいな回答だった。
つまり山崎さんのように、売るに売れない負動産を保有している場合、永遠に固定資産税を吸い取られる可能性もあるのだ。これでは、1300年前に山上憶良が、里長による税の取り立てで貧しい暮らしを強いられた農民の絶望を謳った『貧窮問答歌』と何も変わりがない。元国税調査官で税理士の松嶋洋氏も、固定資産税について「欠陥だらけの制度」と切り捨てる。
「固定資産税の評価額は、自治体が依頼した不動産鑑定士などが過去の売買事例を参考に決められますが、取引が活発でない過疎地などでは、実勢価格と大幅に乖離してしまう例が珍しくありません。また、評価基準が複雑すぎること、それを扱う地方の職員に専門知識がないことなどから課税誤りが頻発しています」(松嶋氏)