現在は独居老人を「見守る側」でも、歳を取ればいずれ入院や介護が必要になってくる。医療需要が急増し、それが800万人分となると医療施設も介護施設も老人ホームも決定的に足りなくなる。政府は医療費の増加を見込んで、医療費窓口負担も引き上げる。上医師が語る。
「とくに深刻なのは医師不足です。首都圏の75歳以上の人口あたりの医師(60歳未満)の数は、2025年以降は2010年の半分になると予測されている。団塊世代の医療需要に対応するには、オンライン診療を普及させたり、現在は医師にしか認められていない医療行為の一部を看護師にもできるようにするなど、医療分野の大幅な規制緩和や改革が欠かせない。
しかし、コロナで欧米の10分の1の患者もさばけない医療の現実や政府の対応を見るとそうした改革は期待薄です」
憧れだったマイホームは、歳を取った時に十分なケアが提供されなければ“孤独死の現場”となりかねないから問題は深刻である。「マイホーム主義」の悲惨な末路は現実のものとなるのか──。
競争心の激しい団塊世代は、医療費負担を引き上げられたうえ、自分たちは医者にかかれないとなれば黙っていないはずだ。
「現在の後期高齢者は戦争を経験して、基本的に国を信用していないスタンスがあり、国への依存心が低い。制度的なものへの文句を言わない傾向がある。それに比べて、戦後生まれである団塊世代はかつて学生運動を展開したことからもわかるように権利意識が強く、国になんとかしろと要求する傾向がある。裏を返せば国への依存心が強いということです」(上医師)
若い頃に「安保反対」を叫んで70年安保闘争を展開した団塊世代が後期高齢者になり、医療崩壊で病院も医師も金も足りないとなると、今度は「我々に医療を受けさせろ」と半世紀ぶりの社会変革運動を起こすかもしれない。
※週刊ポスト2022年3月4日号