実際に販売されていた「まさかの臭豆腐」
問題は企業側にある。輸出品は、輸出先での検査で不純物や微生物が混入していた場合、多額の違約金を支払わされる。だから、規則を守り、ちゃんと作るのだが、国内向けは罰金の金額が小さいし検査も緩いので、思い切り手を抜いて作っている。
国内向けは競争が激しく、利益を出すためには農家に安く作らせるのが最も合理的なやり方だ。こんな作り方ではすぐに腐敗してしまうはずだが、安い防腐剤を大量に使うことで腐敗を防いでいる。季節によって違うようだが、夏場は基準の十倍もの防腐剤を入れているそうだ。
本来なら、きれいに水洗いし悪い部分を取り除いたからし菜を適量の塩を振りかけ、手で揉みながら丁寧に、蓋のついた壺のような容器(老壇)に入れて作られる。防腐剤などは一切入れず、アルコール度数の高い白酒を用いて消毒する。農家の作っているのは老壇酸菜ではなく、土坑酸菜である。
これは自由競争、利益至上主義の一つの副作用である。共産党はこうした副作用の発生を問題視しており、共同富裕の促進政策ではこれを取り除くといったことが重要な課題の一つとなっている。
それにしても、中国の食品衛生問題は酷い。これまでも、顧客が食べ残し、汚いティッシュやら、煙草の吸い殻などの入った火鍋のスープから固形物を取り除き、再利用していた件、レストランから下水に流れ出た油を掬い取り、それを再生して販売していた件などが発覚している。
特に酷かったのは臭豆腐だ。ヒトの汚物を溜め置き、それを水に溶かした中に塩ゆでした豆腐をぶち込み、数日置いて作った製品を販売していた件だ。
値段の安い製品は、たゆまぬ企業努力によって成り立っているものがある反面、必要以上にコストを抑えていたり、何らかの理由で売れ残り、需給が崩れたりしている製品もある。値段が高ければ安全だとは言えないが、安ければその製造過程においてなんらかの“秘密”があるケースもあるだろう。
今後、日本でも物価の上昇が見込まれ、我々庶民は生活防衛を余儀なくされそうだが、同じようなことが日本で起きないとも限らない。安い食品にはくれぐれも気を付けるようにしたい。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。