そうです。この会社は、取引先でも親父が世話になった人でもない、商品先物取引の会社だったのです。聞くところによると、この業界の営業マンは普段からかなり地道な飛び込みセールスに精を出していて、追い返されても名刺だけは置いていくようです。
おそらくウチにもこの人がセールスにやって来て、名刺を置いていったのでしょう。そのときは、どうにか話を切り上げて、適当に電話を切って難を逃れました。
「親父のヤツ、セールスの名刺なんか律儀にとっとかないでくれよ。ヒドイ目に遭ったじゃないか」
と、ブツブツ文句を言っていましたが、本当にヒドイ目に遭うのは、これからだったのです。
■新米社長の僕のところに「ゴムの坂本」がやって来た!
翌日、知らない男が会社に飛び込んで来ました。
「こんにちは、ゴムの坂本でーす!」
「は? ゴムの坂本? だれだオメエ?」
なんと、昨日電話した商品先物会社の営業マンでした。商品先物といっても、扱う商品は金やら銀やら大豆やらいろいろあるのですが、この男は天然ゴムの担当だったのです。
ゴム担当だけあって(?)、ゴムまりみたいにムチムチした体つきをしていました。もちろん、当時の僕は商品先物はおろか、投資のトの字も知りません。
「勘弁してくれよ。難しいことはわかんないからさ」
「ゴムの坂本におまかせください! とにかく儲かりますから! やらなきゃソンですよ!」
後からわかったことですが、この会社、実は結構ヤバイ会社でした。しかし運悪く、このときの僕は親父の死亡保険金1000万円を受け取った直後。いきなり大金を手にして浮かれていたところだったのです。