さまざまな災難に見舞われながらも不屈の精神や前向きな考え方の転換で、ものごとを極めていく人がいる──。
バックギャモンは、2つのサイコロの目に従って駒を進め、先にゴールした方が勝ちというゲーム。日本ではなじみが薄いが、世界の競技人口は3億人といわれる。
近著に『がんとバックギャモン~子宮体がん発症から世界3億人の頂点へ~』(マイナビ新書)があるプロバックギャモンプレーヤーの矢澤亜希子さん(41才)は、「中学1年から自分に課している『1年に10の新しいことをやる』というルールの一環で、大学時代に始めました」と言う。
サイコロを振る競技なので、運に大きく左右されるのかと思いきや、「運の要素は3割もない。なぜなら、強い人が毎回かなりの確率で勝ちますから」(矢澤さん・以下同)。
どうしたら勝てるのかを追求すべく、AIを使った解析ソフトで正解の法則を学んだ。
「“これが正しい”と自信を持った手が、コンピューターの解析ではとんでもない悪手だったということが多々あります。なので、確信があっても“間違いかもしれない”と少し俯瞰し、表と裏の二通りの可能性を考えるようになりました」
メキメキと腕を上げ、2012年、日本人3人目のプロとなった。
「日本の大会は賞金が少ないので、世界各地のトーナメントを回ります。飛行機やホテルの予約から申請まで、すべてひとりで行います。世界でも女性のプロは私ひとりでしたから、試合会場で冷やかされることも。早く実力で認めさせたいと思いました」
プロ活動を始めた同年、子宮体がんを宣告されてしまう。31才のときだ。
「手術しないと1年もたないと言われ、子宮、卵巣、リンパ節の切除手術を行いました。入院中、最初の頃は絶望的なことばかり考えていました。それでも、“バックギャモンの世界チャンピオンとして名を残すことができたら、もし助からなくても納得できるんじゃないか”と考えるように。それからは、『死んだらどうしよう』という答えの出ない問いに悩んでいた時間を、バックギャモンの勉強に充てました。『病気だからもう頑張らなくてもいいよ』と言われたら、かえってきつい。自分はまだ価値があると思いたい。それが病気を克服するモチベーションになりますから」