ツイッターユーザーの間では、この「緊張感を持って対応」以外にも、実は何も決断していない「岸田話法」の具体例が次々と指摘されています。
「遺憾に思う」「注視していく」「最善を尽くす」「総合的に判断」「慎重に検討する」「遺漏なく取り組む」「検討に検討を重ねる」「最善の方法を模索する」「あらゆる選択肢を排除しない」「専門家の意見を伺いながら議論を続ける」……といった感じです。
ビジネスシーンで使われる「岸田話法」の例
これらの「岸田話法」ですが、ビジネスシーンにおいても使われるケースが多々あります。たとえば、原油高の影響で、自社の業績にダメージが見込まれる場合、営業部長が部員を集めて朝会を開き、こんなことを言うかもしれません。
「昨今のロシアによるウクライナ進行に伴う原油高やエネルギーの高騰について当社もダメージを受けることが予想されます。ここは、状況を注視したうえで、危機感と緊張感をもって社員の皆さんには日々の業務に取り組んでいただきたい。我々上層部としては、日々対策について検討に検討を重ね、最善の方法を模索し、この危機打破に向け、あらゆる選択肢を排除せず、為替やエネルギー分野の専門家の意見も伺いながらこの危機を脱出すべく適切に対応したいと考えています」
なんだか賢そうなことをいろいろ言っているように見えますが、結局のところ、何も決断していないんですよね……。ところが、会社では、案外この手の上司がバンバン出世するんです。逆に、「失敗の可能性もあるけど、この事業にチャレンジしてみよう」という冒険心を持った上司は失脚しがち。
私はこれまで広告業界と出版業界と深く付き合いをしてきましたが、ドラスティックに何かを変えようとすると、「現状を維持するのが大事だ」という勢力が出てくるのを、何度も目にしてきました。
たとえば、2000年代後半から2010年代前半にかけて、社としてネットビジネスにどう取り組むかという問題を話し合っていた時、広告業界なら「テレビCMが何より大事だ」、出版業界なら「紙メディアを守れ」と、ネットビジネス参入に反対する声はかなり大きかった。結果的に今はネット広告がテレビ広告の金額を上回っていますし、出版社も「紙+ネット」に舵を切りました。しかし、当時は「ネットに力を入れましょう!」と主張する人は「あいつは我が社のことを考えていない」と追放される例すらあったのです。