国民年金の自営業者と厚生年金のサラリーマンのほとんどの層で年金額が増え、損をするのはごく一部の高額所得者だけ。そう説明されれば、多くの国民は改革を歓迎するはずだ。だが、ちょっと待ってほしい。
そもそも自営業者の国民年金の財政が立ち行かなくなったから、サラリーマンの厚生年金で穴埋めするというのだ。そんなやり方でなぜ、国民年金も厚生年金も支給額が増えるというのか。経済ジャーナリストの荻原博子氏が指摘する。
「自営業者の国民年金とサラリーマンの厚生年金は別物。会社員は本人と会社が折半するかたちで高い保険料を納めており、それを国民年金を維持するための穴埋めにするというのは公平性が担保されなくなります。
場当たり的な対応をしているようにしか思えません。世帯年収1790万円以上の層だけが損するといった試算も高額所得者なら文句を言わないだろうと見込んだやり方のように思います。果たして本当にそんなことができるのか疑問です」
トータルの年金財源は変わらないのに、年金支給額を増やすというマジックが“トリック”なしでできるはずがない。この改革で何が起きるのか、「年金博士」こと社会保険労務士・北村庄吾氏の分析とともに見ていく。
一般の人には非常にわかりにくい
厚労省は年金の財政を5年ごとに検証し、制度改正を行なってきた。実は、危機的な国民年金の財政を厚生年金で補填するアイデアは前回の2019年財政検証でシミュレーションされている。それをいよいよ実行しようというのだ。
だが、「厚生年金の財源を国民年金に回します」とストレートに説明すれば、サラリーマンの反発を浴びる。そのため財政検証でこの改革案は非常にわかりにくい説明がなされている。
年金制度は“100年安心”を謳った2004年の小泉年金改革で抜本的な制度の変更が行なわれた。
本来、年金には、インフレ時に年金生活者が困らないように年金額を物価上昇率と同じだけ引き上げる仕組みがある。制度の基礎となるものだ。