自ら学習する能力を身につけ、飛躍的な進化を遂げている人工知能(AI)。従来のように取引の執行だけでなく、意思決定まで行うAIが金融の世界に参入すると、どうなるか? 『人工知能が金融を支配する日』(櫻井豊・著/東洋経済新報社)は、主にアメリカの現状を引きながら、「超高速ロボ・トレーダーが市場を席巻する」「カリスマの相場観、経験、勘に頼ったスタイルは凋落する」などと近未来を予測する。
最後の公表となった2004年度の高額納税者番付で1位となり、「年収100億円のカリスマ・ファンドマネージャー」と話題になった清原達郎氏(タワー投資顧問運用部長)は、どう考えるか。(インタビュー・文/鈴木洋史)
──清原さんが手掛ける日本株の市場でAIの存在感を感じますか。
清原:いや、感じませんね。結論から言えば、AIが市場に参入しても、うちのようなファンドが脅かされることはまったくないです。
うちは東証2部や新興市場の割安な小型株を大量に運用しているのですが、銘柄を選ぶ際、いろいろな情報を取ります。その情報がIR(投資家向け広報)資料やマスコミ報道のような文字化されたものだけなら、コンピュータの方が速く、正確に分析します。
しかし、そんなものは判断材料のごく一部に過ぎません。周辺の人から会社の評判などいろいろな情報を取り、社長にインタビューして経営方針や人物像を見るのはもちろん、その話し振りや顔色から自信や確信に満ちているかどうかまで判断する。AIが自己学習するためにはデータが豊富に揃っている必要がありますが、我々が判断材料とする情報はデータ化しにくい“ニュアンス”のものが多いのです。
そもそも日本の株式市場はアメリカと比べて歴史も短く、規模も小さく、経験も少ない。さらに小型株の場合、出来高が少ない。従ってデータが少ないんです。
──しばらく前、人工知能の「アルファ碁」が世界的な囲碁のトッププロと対戦して勝ち越しました。
清原:あのおかげで、何でも人間以上にできるとばかりに、AIの能力が過大評価されたと思います。イメージ的に言えば、株の運用というのは、碁のように線と線の交点にだけ石を置く単純な世界ではなく、交点から外れたところや碁盤の上部の空間にも石を置く世界で、複雑さのレベルが違います。
──東京証券取引所でも2010年から、コンピュータによる超高速の株式売買システム(アローヘッド)が導入されていますが。
清原:コンピュータが人間より有利なのは、基本的には短期のスプレッド取引(価格差、金利差を利用した裁定取引=鞘取り)です。それはスピード勝負ですから。しかし、AIが長期の運用に向いているとは思いません。