かつての日本は“出稼ぎに行く国”だったが、それも過去の話になっている。賃金が一向に上がらない状況に円安が重なって、今や日本人が海外に出稼ぎに行く時代だ。物価も上昇し、生活が苦しく日本から抜け出して、海外で働く人も少なくない。
かつて日本人は物価の安いアジアを好んで旅行したが、いまはアジアにいながら日本よりも稼げる時代になったようだ。銀座の寿司店で修業して、2017年にタイ・バンコクに移住した水流智志さん(38才)が語る。
「最初はアメリカ系の寿司店で働き、2019年末に共同経営者とともにバンコクの日航ホテルに『奇新』という寿司店を出しました。ところが翌年コロナでロックダウンになり、ケータリングやデリバリーで食いつないだものの、ホテル自体を閉めることになりました」(水流さん)
奇新はタイの富裕層向けの店で客単価は1人2万5000円。日航ホテルの中にあったが客の95%はタイ人で、舌の肥えた人が多かった。時には職人の目の前で堂々と「まずい」と言うことさえあったほどだ。外国人だから味はわからないだろうとの甘い見込みが通用しない厳しい世界。それだけに報酬は高かった。
「日本の下積み時代の給料は本当に低いですが、こちらの月収は50万~60万円で、日本時代の10倍です。日本にいた頃は500円と1000円の弁当があったら迷わず安い方を選んだけれど、こっちでは値段を気にせず選ぶようになりました。この1年で1バーツ3.3円から4円近くまで円安になり、アマゾンで物品を買うときにバーツで払うと日本の雑貨を安く買えるようになりました」(水流さん)
水流さんは11月からバンコクの高級ホテル・セントレジスで奇新を再開する予定だ。