自分と近い能力・立場だから嫉妬する
そう考えると、「上」の立場の者が「下」の立場の者を揶揄するのではなく、「下」の立場の者が「上」の立場の者の厚遇に対して「でも全然羨ましくないもーん!」と騒いでいるのが、今回の一連の流れの中にあるのではないでしょうか。
日本人の多くは「失われた30年」の間に、低価格・低賃金に慣れてしまった。さらに語学力の壁もあって、なかなか海外に出ようとしない。冒頭に紹介した3人はそうした変化を恐れないガッツがあったため、アメリカで高い収入を得ることができたのでしょう。
はたして多くの日本人にそのようなことができるでしょうか? 多分無理です。上記【1】~【3】で書いたように、こうした意見を書く人は「日本サイコー」的な価値観を持っていて、そもそも海外に出ようとは考えない。世界で様々な経験をした人が新たな価値観という武器を持って日本に帰ってきた時、大きく活躍できる可能性があるということまで考えが及ばない。
この一連の嫉妬の感情ですが、「自分と近い能力・立場の人間が、自分よりも多く稼いでいる」という事実から生まれているのでは。だって、ビル・ゲイツ氏、ジェフ・ベゾス氏、イーロン・マスク氏、孫正義氏、前澤友作氏……といった“桁外れの大金持ち”に対しては、「スゲーな」で終わってしまう。完全に別世界の生き物です。それが自分と近い能力・立場の人間が稼いでいるのを見ると、「自分でもあの時判断していれば、今より3倍の収入があったかもしれない……」みたいなことを考えてしまい、嫉妬心に繋がる。
いずれにしても他人が高収入を得ていることに対して批判をするのはスマートな行為ではないと思います。こうした事例を参考に「よし、自分もやってやろう」と思える人はそれでよいでしょうし、そうでない人は「へー、そういう話もあるんだ」程度に反応すればよいのではないでしょうか。
【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『よくも言ってくれたよな』(新潮新書)。